はじめに
こんにちは。「社外役員」をテーマにお届けするシリーズの第4回です。
前回の記事では、「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」が掲げる5つの基本原則や、「プリンシプルベース」「コンプライ・オア・エクスプレイン」といったユニークな特徴について解説しました。
また、これまで、社外役員制度の経緯について説明してきましたが、それは主に取締役の暴走を防ぐ等の「守り」の側面を強調してきました。
一方、CGコードが目指しているのは、企業をルールで縛り付ける「守り」の姿勢ではなく、企業の持続的な成長を促す「攻めのガバナンス」であることに触れました。
今回は、この「攻めのガバナンス」とは具体的に何を指すのか、そしてなぜガバナンスの強化が「攻め」の経営につながるのか、そのメカニズムと、そこで社外役員が果たす重要な役割について深掘りしていきます。
「攻めのガバナンス」とは何か?
CGコードが策定された背景には、日本企業の「稼ぐ力」を向上させるという大きな目的があります。
ただ、不祥事を防ぐといった「守り」の側面だけでは、企業価値の目減りを防ぐことはできても、企業価値を最大化することはできません 。
企業が成長し、価値を最大化するためには、現状維持に甘んじるのではなく、何らかのリスクを取って新たな挑戦をしていくことが不可欠です。
例えば、将来性のある新規事業への投資、大胆な事業再編、M&Aといった戦略的な意思決定がそれに当たります。
CGコードが目指す「攻めのガバナンス」とは、まさにこうした経営陣による適切なリスクテイクを後押しし、健全な企業家精神の発揮を促すことを主眼に置いた考え方なのです 。
なぜガバナンスが「攻め」を後押しするのか?
「ガバナンス」や「監督」と聞くと、経営にブレーキをかけるイメージを持つかもしれません。
私もどちらかというと、ずっと、そういう考え方を持っていました。
しかし、CGコードが目指すガバナンスは、むしろ経営のアクセルを安心して踏めるようにするための仕組みです。
経営者にとって、リスクを伴う大きな決断をする際に一番の懸念となるのが、「もし失敗したら、後から結果だけを見て責任を追及されるのではないか」という不安です。
このような懸念は、経営者を過度にリスク回避的にさせ、大胆な意思決定を妨げる「萎縮効果」を生んでしまいます 。
そこで、裁判例などで確立されてきたのが「経営判断の原則」という考え方です。
大学で会社法を勉強した方は、聞いたことがある言葉かもしれません。
これは、取締役が下した判断について、
- 行為当時の状況に照らして、合理的な情報収集・調査・検討が行われたか
- その状況と取締役に要求される能力水準に照らして、著しく不合理な判断ではなかったか
という2つの基準を満たしていれば、たとえ結果的に会社に損害が生じたとしても、取締役個人の責任は問われにくい、というものです。
そして、この「合理的な意思決定のプロセス」がきちんと機能していることを担保するのが、まさに実効的なコーポレートガバナンスなのです 。
CGコードの原案には、次のような説明があります。
「会社においてガバナンスに関する機能が十分に働かないような状況が生じれば、経営の意思決定過程の合理性が確保されなくなり、経営陣が、結果責任を問われることを懸念して、自ずとリスク回避的な方向に偏るおそれもある。(中略)本コード(原案)では、会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより、経営陣をこうした制約から解放し、健全な企業家精神を発揮しつつ経営手腕を振るえるような環境を整えることを狙いとしている」
つまり、ガバナンスを強化し、意思決定プロセスの透明性・公正性を確保することによって、経営陣は過度に萎縮することなく、安心して迅速・果断な意思決定(=攻めの経営)を行えるようになります。
「攻め」を支える鍵、社外役員の関与
では、その重要な「意思決定プロセスの透明性・公正性」は、どのようにして確保されるのでしょうか。
その鍵を握るのが、経営陣から独立した客観的な立場にある者、つまり社外役員による監督です 。
CGコードも、取締役会の重要な責務として「独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと」を掲げています 。
この「独立した客観的な立場」とは、会社の利益より自己の利益を優先したり、監督対象と馴れ合いの関係にあったりすることなく、常に第三者的な視点と公正不偏の態度を保つ精神状態を指します。
この役割を担うのに最も適しているのが、過去または現在の業務執行に携わっていない社外取締役なのです 。
そのため、CGコードは、上場企業に対して社外取締役の積極的な選任を具体的に求めています。
【原則4-8】 「独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。」
このように、社外取締役には、不正を防ぐ「守りのガバナンス」はもちろんのこと、企業の持続的な成長を促す「攻めのガバナンス」においても、その中核的な役割を果たすことが強く期待されています。
まとめ
今回は、CGコードが目指す「攻めのガバナンス」と、それを支える社外役員の役割について解説しました。
「攻めのガバナンス」とは、不祥事防止だけでなく、経営陣の適切なリスクテイクを後押しし、企業の「稼ぐ力」を向上させることを目指す考え方
ガバナンスを強化して意思決定プロセスの合理性を担保することが、経営者を「結果責任」の懸念から解放し、大胆な経営判断を可能にする
「攻めのガバナンス」を実現する上で、経営陣から独立した客観的な立場で監督を行う社外取締役の存在が不可欠

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