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【社外役員シリーズ第3回】コーポレートガバナンス・コードとは?

社外役員

はじめに

こんにちは。「社外役員」をテーマにお届けするシリーズの第3回です。

前回の記事では、2013年以降の「コーポレートガバナンス改革」が、日本の長期的な経済停滞を打破し、企業の「稼ぐ力」を取り戻すための国家戦略であったことを見てきました。

そして、この改革の中核をなすのが、2015年に東京証券取引所のルールとして施行された「コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)」です。

これは、会社法と違って法律ではないのですが、東証に上場する企業が遵守すべき企業統治の指針とされており、とても影響力のある重要なものです。

はっきり言って、CGコードの影響はとても大きく、CGコードが出来てから上場企業の姿は大きく変容しました。最近よく言われる、株主や資本コストを意識した経営、等はここから始まったと言えるでしょう。

今回は、このCGコードを理解する前提となる「コーポレートガバナンス」の考え方から、CGコードが掲げる基本原則、そしてそのユニークな特徴までを詳しく解説していきます。

そもそも「コーポレートガバナンス」とは何か?

「コーポレートガバナンス(企業統治)」という言葉は、一義的に定義されるものではありませんが、一般的には「企業行動を律する枠組み」とされています。

法律的な観点から見ると、「株式会社において、経営者が株主の利益に反するような行動を取らないための仕組み」と考えることができます 。

しかし、現代ではより広い意味で、「企業を社会的に有用な存在とするために、外部から企業活動を律する枠組み」と捉えることも可能です。

この考え方を理解するために、まず「企業の目的は何か?」という問いを考えてみましょう。

企業の目的は誰のため? ― 株主 vs ステークホルダー

企業の目的について、大きく分けて2つの考え方があります。

  • 株主至上主義: 「企業は株主のものであり、株主の利益を最優先すべきだ」という考え方です 。近年、積極的に経営に関与する「物言う株主」の登場により、この考え方が注目されることもあります 。
  • ステークホルダー資本主義: 一方で、企業活動は株主だけでなく、顧客、従業員、取引先、債権者、地域社会といった多様な利害関係者(ステークホルダー)との良好な関係なしには成り立ちません。

なお、従前の日本では、「会社は従業員(と従業員出身の役員)のもの」という意識が強く、株主が軽視されてきた経緯があります。

CGコードが示す考え方は、後者の「ステークホルダー資本主義」に近いものです。「株主だけでなく」ってのが日本におけるポイントで、株主が大事なのは当然とされていますので、従前の日本の「従業員主義」とは全く異なるものと言えるでしょう。

企業が長期的に成長していくためには、これらのステークホルダーとの利害を調整し、良好な関係を築くことが不可欠です 。

つまり、企業の目的とは、「多様なステークホルダーとの良好な関係を築き、その利害調整の中で自らの利潤を最大化し、事業を継続・成長させて中長期的に企業価値の向上を図ること。その結果として、株主の利益を最大化すること」にあるのです 。

この考え方に基づき、CGコードはその冒頭でコーポレートガバナンスを次のように定義しています。

「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」

CGコードが掲げる「5つの基本原則」

CGコードは、この定義を実現するために、企業が従うべき5つの「基本原則」を掲げています。これらは、実効的なコーポレートガバナンスを実現するための大黒柱となる考え方です。

基本原則概要
1. 株主の権利・平等性の確保全ての株主の権利が実質的に確保され、平等に扱われるべきである。特に少数株主や外国人株主への配慮が求められる 。
2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働企業の持続的な成長は、従業員、顧客、取引先、地域社会など多様なステークホルダーの貢献の結果であり、これらステークホルダーと適切に協働すべきである。
3. 適切な情報開示と透明性の確保財務情報だけでなく、経営戦略やリスク、ガバナンスといった非財務情報についても、法令に基づく開示に加え、主体的な情報提供に努めるべきである。
4. 取締役会等の責務取締役会は、株主への責任を踏まえ、①企業戦略の方向性を示し、②経営陣のリスクテイクを支え、③独立した立場から経営を実効的に監督する役割を果たすべきである。
5. 株主との対話持続的な成長と中長期的な企業価値向上のため、株主総会以外でも株主と建設的な対話を行うべきである。

CGコードのユニークな2大特徴

CGコードが日本の企業社会に大きな影響を与えた理由の一つに、そのユニークな運用方法があります。

特徴①:プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)

CGコードは、企業が取るべき行動を細かく規定する「ルールベース(細則主義)」ではなく、大まかな原則(プリンシプル)を示す「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しています。
これは、会社の業種や規模、環境は様々であり、画一的なルールを押し付けるのではなく、それぞれの会社が自社の状況に合わせて、原則の趣旨・精神に沿った最適なガバナンスを構築すべきだという考え方に基づいています。

特徴②:コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、説明するか)

CGコードのもう一つの大きな特徴が「コンプライ・オア・エクスプレイン」という手法です 。 CGコードには法的な拘束力はなく、企業は必ずしも全ての原則を実施(コンプライ)する必要はありません 。
もし、自社の状況に照らして実施することが適切でないと判断した原則があれば、それを「実施しない理由」を株主や投資家に十分に説明(エクスプレイン)することで、原則を実施しないことも認められているのです。
ただし、単に「当社の現状では困難」といった雛形的な説明では不十分で、なぜ実施しないことが自社にとって合理的であるかを、ステークホルダーが納得できるように説明する責任があります。

まとめ

今回は、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の基本的な考え方と、その中身について解説しました。

CGコードが目指すのは、株主だけでなく、従業員や顧客、地域社会など多様なステークホルダーとの協働を通じて、中長期的な企業価値向上を図ること

「株主の権利確保」「ステークホルダーとの協働」「情報開示」「取締役会の責務」「株主との対話」という5つの基本原則がある

CGコードは、各社が自主的に最適な方法を考える「プリンシプルベース」と、原則を実施しない場合には理由の説明を求める「コンプライ・オア・エクスプレイン」という特徴を持つ

これらの原則や特徴からわかるように、CGコードは企業を単に縛るための「守り」のルールではありません。

むしろ、各企業が自律的にガバナンスを向上させ、持続的な成長を遂げることを促す、いわば「攻め」のガバナンスを目指すものです。

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