失敗しない事業承継のために
事業承継を考えている経営者は誰も、事業承継で失敗したいとは思っていないはずです。
今回は、事業承継に失敗した事例を学んでみましょう。
事業承継に成功した事例は数多く見聞きしますが、失敗例はなかなか表に出てきません。
失敗例からしっかり学んで、自らの事業承継に失敗しないようにしましょう。
株式の承継に失敗した事例
父親であるXさんが起こした会社の2代目のAさん。
Xさんはすでに会社の仕事から引退しており、後を継いだAさんが会社の社長を務めていました。
Aさんには兄弟が2人(Bさん、Cさん)いましたが、兄弟仲は良好とまでは言えませんでした。
Xさんの奥さん(Aさんらの母)はすでに他界しています。
会社の株式は、創業者であるXさんがすべて保有してました。
XさんはとAさんは、Xさんが亡くなった後もAさんが社長を続けられるように、株式の承継を考えました。
そこで、Xさんは知り合いの税理士に相談しました。
その税理士は、
「会社の株式を生前にすべてAさんに贈与すると、贈与税が大きくかかってしまう。」
「株式の40%だけ生前に贈与しておけば税金の負担を少なくできる。」
「Xさんの死後、法定相続によって兄弟で残りの60%を三分割するので、Aさんの保有割合は60%となるため、過半数の株式を保有するAさんは社長を続けることができる」
とアドバイスしました。
Xさんはそのアドバイスどおり、会社の株式の40%をAさんに譲渡しました。
数年が経過してXさんは他界しました。
Aさんが会社の株式の60%を保有することになって、めでたし、めでたし、
とはなりませんでした。
株式の高額での買取り請求
Xさんの死後、三兄弟で遺産分割協議が行われました。
その際、BさんとCさんは、Aさんに対して
「我々の相続分たる40%の株式を高額で買い取ってほしい。さもなくば社長は辞めてほしい」と迫りました。
Aさんはその当時、現金の余裕がないため、株式の買取りはしたくありませんでした。
そもそも株式買取りをしなくてもいいように、税理士のアドバイスに沿って事業承継をしたつもりです。
しかしながら結局、相場よりはるかに高い言い値で、Bさんらの保有する株式を買い取るはめになってしまいました。
遺産分割するまでは遺産は共有
法律上、遺産分割するまでは遺産は相続人全員で共有することになっています(民法898条1項)
つまり、遺産分割の合意ができるまでは、会社の株式の60%はABC三人で共有となるのです。
そして共有となっている株式については、共有者間で決定した代表者が株式に関する権利を行使します(会社法106条)
今回のケースの場合、ABCの三人で代表者を決定する場合、BさんCさんが結託すればBさんを代表にできるということです。
その場合、Aさんが行使できる会社株式の持分は40%にとどまります。
つまり、BさんとCさんは、Aさんを会社から追い出すことが可能となるのです。
このことを弁護士に相談して初めて理解したAさん。
結局、会社経営を続けるため、相場よりもかなり高額なBさんCさんの言い値で、会社株式を買い取らなくてはならなくなりました。
手間暇・費用をケチらない
Aさんの失敗の原因はどこにあったのでしょうか?
AさんとXさんが、知り合いの税理士ではなく、弁護士や事業承継に詳しい税理士に相談していれば、今回の失敗は防げたはずです。
節税を重視する経営者はとても多いですが、節税によって大事なものを失ってしまっては意味がありません。
税理士試験には会社法がありません。
そのため、すべての税理士が会社法に詳しいわけではありません。
事業承継の相談をするには、必ず事業承継に詳しい方に相談すべきです。
また、会社法の知識が不可欠ですので、いずれにせよ弁護士への相談も必須です。
この記事を読んでくださった方が、同様の失敗をしないことを願っております。
まとめ
株式は遺産分割完了までは相続人間で共有になってしまう
節税よりも大事なことがある
事業承継の相談は、事業承継に詳しい専門家にしよう
会社法絡みの問題は必ず弁護士に相談しよう


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