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不動産M&Aは税制上のメリットが大きいため行われる

M&A

不動産M&Aとは

ここ10年くらいでM&Aという言葉をよく耳にするようになりました。

M&Aとは、Mergers(合併)& Acquisitions(買収)の略で、合併や買収による企業再編のことです。

今回説明する不動産M&Aとは、不動産(だけ)を所有する会社を対象とするM&Aのことです。

一般のM&Aでは、買収する会社は買収される会社が行っている事業が欲しくて行います。

不動産M&Aは、買収する会社が、買収される会社の保有する不動産が欲しいため行われるのです。

昨今、事業承継による一般のM&Aの件数が増加していますが、同様に、不動産M&Aの件数も増加している傾向にあります。

そこで、なぜ不動産M&Aが活発になったのか、そのメリット、デメリット、留意点を説明します。

なお、不動産M&Aの流れについては、不動産M&Aの流れをご参照ください。

不動産M&Aが活発になった背景

不動産M&Aが活発になった背景、それは一言でいえば、相続対策です。

日本にはたくさんの中小企業があります。

その中でも多いのが、もともと地主や自営業者が保有していた不動産を賃貸している、いわゆる資産管理会社です。

こういう資産管理会社には、主に下記の2種類があります。

①もともと個人で不動産賃貸業をやっていた会社が税制や信頼性向上のために法人成りしてできた会社

②もともと自社が保有する物件の一部で事業を営み、ビルの他フロアを賃貸に出していたが、事業をやめて不動産賃貸だけ残っている会社、の2種類があります。

これら2種類の会社に共通するのは、会社の価値のほぼすべてが保有する不動産から構成されている点です。

会社の株式のまま相続が発生すると、遺言で指定しない限り、兄弟姉妹で株式を共有する状態になってしまいます。

東京23区や大阪市等の都心に不動産を所有している会社の場合、不動産価格が大きいため、会社株式の価値も大きいです。

したがって、その余の財産だけでは兄弟姉妹間の平等が図れなくなため、会社株式を誰かに寄せることも困難になります。

資産管理会社の株式を兄弟姉妹間で共有すると、会社の保有する不動産からの収益を誰が受け取るのか等、トラブルの原因が多々あります。

そこで、会社が保有する不動産を売却して、会社を精算して現金化することで、兄弟姉妹で簡単に平等に相続できるようにすることを考えるのが、不動産M&Aなのです。

ただ、ここまで読んだ皆さんとしては、

「会社が持っている不動産を売却して、会社を清算すれば、わざわざ不動産M&Aなんてしなくていいのでは?」

と思いませんか?

わざわざ不動産M&Aが行われるのは、税制上のメリットが大きいからなのです。

実際どれくらいの税金がかかるのか、見てみましょう。

※以下、わかりやすくするために、非常におおざっぱな事例・計算になっています。

正確な税金の金額は、必ず税理士に相談してください。

不動産売却➡会社精算の場合の支払う税金

不動産を売却➡会社を精算、という流れにすると、以下のような税金がかかってくることになります。

①不動産を売却したことによる利益について会社に法人税がかかる

②配当または剰余金の分配により、株主個人に所得税と住民税がかかる

たとえば、数十年前に2億円で取得した不動産が時価10億円になっている会社(既存の出資金額は3億円)を精算するケースを考えてみましょう。

不動産を10億円で売却すると、不動産の売却益8億円(ほかに事業はやっていないと仮定します)が発生するので、実効税率が30%だとすると、①2.4億円の法人税を納めることとなります。

残った7.6億円(10億円-2.4億円)を株主に戻します。

資本金等の額(株主が出資した分)が上記のとおり3億円だとすると、

4.6億円(7.6億-3億)に所得税等がかかります。

所得税等は、約50%となります(所得税(総合課税)最高税率45%、住民税率10%、配当控除▲5%等)

つまり、②約2.3億円の税金がかかることとなります。

つまり、①②合計で、約4.7億円もの税金を支払う必要があります。

10億円もの不動産がありましたが、手元には約5.3億円しか残りません

不動産M&Aの場合の支払う税金

一方、不動産M&Aの場合、かかる税金は単純で、株主個人に、株式譲渡による利益の20.315%がかかるだけです。

20.315%の内訳は、所得税が15%、住民税が5%、復興特別所得税が0.315%です。

こちらの場合、累進課税制度の総合課税とは異なり、株式譲渡の利益がいくらであっても、税率は一定なのです。

上記と同様の事例で、不動産M&Aによる売却価額が同じ10億円だと仮定すると、

売却益が7億円(10億円-3億円)

かかる税金は1.42億円(7億円×20.315%)で、手元に8.58億円も残るのです。

もちろん、一般の不動産売買と不動産M&Aでは売却できる価格が違う(不動産M&Aの方が低い)ので単純比較はできません。

しかしそれを考慮しても、不動産M&Aは、支払う税金がはるかに低いため、相続対策として人気があるのです。

再度の注意ですが、実際の税金計算はその企業、株主のおかれている状況により異なります。

必ず、税理士に依頼して、不動産M&Aを行うかどうかの判断をしましょう。

まとめ

不動産M&Aとは、不動産(だけ)を所有する会社を対象とするM&Aのこと

相続対策のために、近年不動産M&Aが活発になっている

不動産売却➡会社精算より、不動産M&Aの方が支払う税金が少ない

実際の税金の計算は必ず税理士に相談・依頼すること

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