ダブルライセンスによる経営・法律・会計ブログ

会計士試験のバランス調整~新しい傾向~

コラム(ダブルライセンス)

はじめに

前回の記事『「公認会計士試験のバランス調整について」の発表を受けて』では、公認会計士試験の「合格率」や「試験形式」といった制度の骨格が大きく変わることをお伝えしました。

まだご覧になっていない方は、ぜひそちらからチェックしてみてください。

さて、今回は、さらに深掘りしていきます。

テーマは、「出題内容の質的変化」です。制度が変わるだけでなく、試験で問われる能力そのものも、時代に合わせて進化していきます。

「論文式試験では、どんな力が求められるようになるの?」 「英語やITが苦手だけど、大丈夫?」 「選択科目はどれを選べば有利なの?」

こうした、より実践的な疑問に、お答えしていきます。

未来の公認会計士に求められるスキルを理解し、一歩先を行く学習戦略を立てていきましょう!

論文式試験はどう変わる?~思考力・論述力を問う「書かせる」試験への回帰~

前回の記事で、短答式試験の合格者数は増加する一方、論文式試験の合格率が下がることになり、論文式試験が勝負の場になるとお伝えしました。

それは単に競争が激しくなるだけではありません。問題の質も変わることが示唆されています。

資料には、現状の論文式試験について「一部の科目では、記述量が少ない状況が見られる」という厳しい指摘があります 。

そして、今後の方向性として「思考力や論述力等を確認するため、一定の記述量を求める問題を出題する必要がある」とされました 。

これは、単にキーワードを暗記して貼り付けるだけの答案(ただ、普通の受験生はこうなりますよね。私もそうでした)にはしないでくれ、というメッセージでしょう。

監査の現場では、監査調書を作成することになりますが、監査調書を作成するにあたっては、論理的な文章作成能力が必須といえるでしょう。

今回の変更は、より実務に近い能力を受験段階で問うという、自然な流れと言えるでしょう。

キーワードを単に羅列するような答案ではなく、本質的な理解に基づいた答案を作成する力を養っていきましょう。

つまり、学習段階から、その制度の趣旨や成立背景も理解することも頭の片隅においておきましょう。

論文式「選択科目」の公平性確保 ~もう「有利・不利」で選ぶ時代は終わる?~

論文式試験には「経営学」「経済学」「民法」「統計学」から1科目を選ぶ選択科目があります。しかし、その選択状況には極端な偏りがあります。

なんと、令和6年試験では、受験者の約97%が経営学を選択しています

なぜこれほどまでに偏るのでしょうか。

資料では「経営学は試験勉強の負担が相対的に少ないと言われている」ことや、「経済学や統計学は得意な受験生が集まるため平均点が高くなり、偏差値換算で不利になりやすい」といった指摘がされています 。

まあ、実務上の理由としては、会計士試験予備校が経営学を選択することを勧めていることが最大の要因かと思います。

最大手のCPA会計学院では、そもそも経営学以外選択科目を受講できないですし。。。

これでは、多様な知識を持つ人材を確保するという選択科目の趣旨が損なわれてしまいます 。

そこで、今回の改革では、この不公平感をなくすための見直しが検討されています。

【選択科目の見直し方針】

  1. 難易度・出題量のバランス調整: 科目間で、計算問題と記述問題の配点割合や難易度のバランスを取る 。
  2. 得点換算方法の見直し: 現在の偏差値に近い換算方法では、受験者集団の能力差を適切に反映できない可能性があるため、素点の水準を一部直接反映させるなどの新しい換算方法を検討する 。

これが実現すれば、どの科目を選んでも公平に評価されるようになると考えれていますが、「ほかの人と同じ科目の方が安全」と考えるのが日本人なので、私は、経営学を選ぶ人が大多数、という現状は変わらないかと思います。

あと、弁護士の私としては、もう少し民法を選択しやすいような配慮(より一層の範囲の限定など)がされてもいいのかな、って思っています。

【未来の公認会計士へ】新たに出題が検討される3つのテーマ

今回の改革で最も未来志向なのが、公認会計士を取り巻くビジネス環境の変化に対応した、新しい出題分野の検討です。

あくまで「検討」、なので、出題が決まったわけではありません。

具体的には、「英語」「サステナビリティ」「IT」の3つが挙げられています 。

これらは、もはや一部の専門家の話ではなく、すべての公認会計士にとって必須の素養となりつつある、との考え方が根底にあるようです。

① 英語 (English)

  • なぜ必要か?: IFRS(国際財務報告基準)の適用企業は300社に迫り、東証プライム企業には英文開示が義務付けられました 。また、グローバル企業の監査(グループ監査)では、海外の子会社とのやり取りが不可欠です 。
  • どう出題される?: まずは短答式試験で、会計や監査に関する英語の文章や資料の読解を求める問題が検討されています 。出題前にはサンプル問題が公表される予定なので、過度に心配する必要はありません 。

② サステナビリティ (Sustainability)

  • なぜ必要か?: 企業の環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)への取り組みを開示する「サステナビリティ情報開示」が、有価証券報告書で始まります。
  • どう出題される?: これもまずは短答式試験で、開示制度(財務会計論や企業法)や保証制度(監査論)に関する応用的な論点として出題されることが考えられています 。

③ IT (Information Technology)

  • なぜ必要か?: 監査実務では、データ分析ツールなどのIT活用が当たり前になっています。また、クライアント企業のDX化が進む中で、そのITシステムが正しく運用されているか(IT統制)を理解する能力は、これまで以上に重要です 。
  • どう出題される?: 監査におけるITの活用など、実務との関連性が高い論点が検討されています 。

ただ、これらの新テーマについて、「今すぐ専門書を買って勉強しなきゃ!」と焦る必要は全くありません

まだ出題が決まったわけでもありませんし、どうせ専門学校のカリキュラムが試験に対応するようになるので、それを待ってから学習すれば十分です。

まとめ

今回の深掘り解説でお伝えしたかったのは、公認会計士試験が、「社会の変化と、それに伴う会計プロフェッショナルへの期待」を敏感に反映して試験内容を変更しようとしている、ということです。

論文式試験で、思考力・論述力がより問われるようになるため、学習段階から趣旨を意識した

選択科目は、科目間の不公平感が是正されるようだが、経営学一強の流れはそう簡単には変わらないはず

「英語」「サステナ」「IT」は、未来の会計士に必須の素養かもしれないが、あせって勉強する必要性は全くない

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