監査をやらない公認会計士
近年、弁護士と会計士のダブルライセンスを目指す方が増えています。
(「弁護士と公認会計士のダブルライセンス」参照)
ただ、そもそも会計士が、わざわざ弁護士資格を取るメリットがあるのでしょうか?
公認会計士の独占業務は、監査業務です。
上場企業においては、公認会計士(監査法人)の監査証明が毎年必要になります。
弁護士の紛争対応と異なり、毎年必ず需要がある仕事のため、おいしい独占業務です。
しかし、監査法人に勤務し監査に従事する会計士は、会計士全体の4割程度しかいません。
理由は多々ありますが、相次ぐ規制強化により、監査業務に魅力がないことが主な理由と言われています。
独占業務をやらない人が過半数という資格は、なんとも異常な気がします。
もちろん、弁護士もインハウスローヤー(企業内弁護士)が増えてきています。
ただ、9割超は通常通り法律事務所に勤務して、独占業務たる法律事務に従事しています。
監査法人を離れた会計士は何をしているかというと、主に以下の3つです。
①企業に入り、CFO(最高財務責任者)や経理部長等になる
②FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)に転職してコンサルタントになる
③独立して、会計コンサルタントになる
④税理士登録して、税理士になる
③と④は組み合わせている会計士が多数います。
公認会計士が弁護士資格をとると、①から④に加えて、
⑤独立して、弁護士登録して、弁護士になる
という選択肢ができることになります。
公認会計士が弁護士を目指すメリット
公認会計士が弁護士を目指すメリットととしては、以下のようなものが考えられます。
・会計顧問先等に法律業務も一緒に提供できる
法律業務は原則として、法律上、弁護士以外がやることは認められていません。
そのため、いかに法律知識のある会計士でも、弁護士資格がなければ行えません。
独立すると、顧問先から、ガバナンス等の法律問題を相談されるケースがよくあります。
このとき、通常の会計士であれば知り合いの弁護士を紹介して終わりです。
弁護士資格も持っていれば、自ら相談対応ができます。
これは、ダブルライセンス保持者にとってだけではなく、企業の担当者にも大きなメリットがあります。
会計士と弁護士が別々だと(まあそれが通常ですが)、説明、資料提供、日程調整、報酬の支払等の雑務、を会社担当者はそれぞれ別にやる必要があります。
この点、弁護士と会計士のダブルライセンスが一括で引き受ければ、企業担当者はこれらの仕事を半分にできるのです。
・社外役員の依頼が来やすくなる
上場企業やIPOを目指す会社は必ず社外役員を選任します。
社外役員に選ばれるのは、大抵が、別の企業の経営者、元役人、弁護士、会計士、です。
この点、会計士だけでなく、弁護士資格も持っていると、ガバナンス上重宝されるので、社外役員に選任されやすいといえるでしょう。
なお、年収については、必ずしもアップしません。
最近食えない弁護士が増加している、ということはよく耳にするかと思います。
日弁連の調査によれば、2020年の弁護士の平均所得(※年収ではない)は約1,200万円であり、監査法人のパートナーの所得を大きく下回っています。
公認会計士が弁護士を目指すデメリット
上述のメリットがある一方、当然デメリットもあります。
・試験勉強に時間・コスト・労力がかかる
弁護士になるには、司法試験に合格する必要があります。
会計士試験に合格していても、司法試験において何の科目免除もありません。
(一方、司法試験に合格していると、会計士試験では大きな免除があります)
一般的には、公認会計士試験同様、試験予備校に通うことになります。
予備校の授業はオンラインで受講できます。
ただ、試験範囲が膨大(個人的な感覚ですが会計士試験の倍以上)です。
このため、新しい分野を学習してはかつて学習した範囲を忘れていく状態になります。
仕事をしながらの勉強・受験は、困難を極めます。
特に、監査法人に勤めている会計士が激務のことが多いので、勉強時間の確保もままなりません。
司法試験の勉強期間は、試験勉強に専念しても最低でも3年超かかります(一部の天才は除く)
もし社会人の方で、仕事しながらであれば、平均で5年はかかるでしょう。
予備校の費用は、予備校によりますが、合計100万円超かかることが一般的です。
このように、合格するか分からないものに、時間・コスト・労力をかけなくてはならないのです。
・司法試験に合格しても、弁護士登録にはさらに手間がかかる
弁護士登録をするには、司法修習という研修に約1年間従事する必要があります。
したがって、この間は仕事を辞める必要があります。
月13.5万円の手当はもらえますが、会計士との給料と比べると激減です。
まとめ
・公認会計士が弁護士資格取得を目指すメリット・デメリット
法律と会計の一体業務提供ができる
社外役員の依頼が来やすくなる
時間・費用・労力がかかる
司法修習という1年の研修期間があり、その間収入が激減する

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