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「公認会計士試験のバランス調整について」の発表を受けて

コラム(ダブルライセンス)

公認会計士試験の内容についての変更の発表

公認会計士を目指して、これから勉強を始めようと考えている方、あるいは既に学習をスタートしている方にとって、非常に重要なニュースがでました。

金融庁の公認会計士・監査審査会が、公認会計士試験の「バランス調整」に関する方針を公表しましたのです(2024年6月公表資料)。

今回の変更は、より実社会で活躍できる能力を持った人材を、より的確に判定するための前向きな見直しです。

私自身もこの厳しい試験を乗り越えてきた一人として、今回の変更が受験生の皆さんに与える影響は非常に大きいと感じています。

そこで今回は、この試験改革の【第1弾】として、「何が、いつから、どう変わるのか」という制度の骨格部分に焦点を当てて、解説していきます。

なぜ今、試験制度が変わるのか?~背景にある「歪み」とは~

まず、なぜこのタイミングで試験制度の見直しが必要になったのでしょうか。その背景には、近年の受験者数の急増があります。

下のグラフを見てください。これは、平成18年(2006年)の新試験制度導入以降の出願者数と最終合格者数の推移です。

【公認会計士試験 出願者数・最終合格者数の推移】

引用: 公認会計士・監査審査会「公認会計士試験のバランス調整について【参考資料】」(令和7年6月公表)

一時期、合格しても監査法人に就職できない人が増えたことで人気が下がり、受験者数が1万人程度まで落ち込みましたが、近年はV字回復し、2万人を超える水準になっています。

しかし、その一方で、試験の「歪み」とも言える問題が顕在化していました。

公認会計士試験は、マークシート式の「短答式試験」と、記述式の「論文式試験」の2段階選抜です 。論文式試験の合格率を36%程度で固定しているため、試験受験者が増加していることにより、短答式試験の合格が難しいものになってきてしまいました。

【近年の公認会計士試験の合格率の状況】

試験段階特徴近年の合格率
短答式試験1次試験。基本的な知識を問う。10%台前半 (各回では一桁台も)
論文式試験最終試験。思考力・応用力を問う。30%台後半

この数字を見て、皆さんはどう感じますか? そう、1次試験である短答式試験の門が極端に狭く、そこを突破してしまえば、最終関門である論文式試験の合格率が比較的高くなっているのです

これは、受験戦略にも大きな影響を与えます。受験生はまず、この超低確率の短答式試験を突破するために、膨大な量の知識をひたすら暗記し、重箱の隅をつつくような細かい論点の対策に追われがちです。

その結果、公認会計士に最も必要とされる「なぜそうなるのか」を考える思考力や応用能力を十分に鍛える前に、論文式試験に臨むことになりかねません 。

今回の改革の最大の目的は、この「歪み」を是正し、「基本的な知識(短答式)をしっかり身につけた人には、次のステージ(論文式)に進んでもらい、そこで思考力や応用力を存分に競ってもらう」という、試験本来の姿に戻すことにあります 。

実際、弁護士でかつ会社法が司法試験で最も得意だった私が、企業法の短答式試験を解いても、足切りぎりぎりの点数しかとれませんでした。

短答式試験が本質的というよりは、細かい単純暗記の試験内容に偏っている、ということの証左かもしれません(私の知識がないだけかもしれませんがwww)

【重要】合格率のバランス調整 ~短答突破しやすく、論文が本当の勝負に!~

今後は、短答式試験の合格率が上がり、論文式試験の合格率が下がることになります 。

変更のポイント

  1. 短答式試験の合格者数を増やす
    • これにより、短答式試験の合格率は現在よりも上昇することが見込まれます。基本的な知識を体系的に理解していれば、より合格しやすくなります。
  2. 論文式試験の合格基準を引き上げる
    • 短答を突破した優秀な受験生が増えるため、論文式試験での競争が激しくなります。
    • 現在の合格基準「得点比率52%」が、「得点比率54%」に段階的に引き上げられます 。

この変更のイメージを図にすると、以下のようになります。

まさに、試験の重心が短答式から論文式へシフトする、大きな変化といえるでしょう。

気になるスケジュールですが、受験生の負担を考慮し、段階的に実施されます。

  • 令和8年(2026年)試験より: 短答式試験の合格者数を増加させる措置が始まります 。
  • 令和9年(2027年)試験より: 論文式試験の合格基準引き上げが、3~4年かけて段階的に行われます 。

これは、これから学習を始める皆さんにとっては朗報と言えるかもしれません。まずは短答式試験の突破という最初のハードルが少し低くなり、学習のモチベーションを維持しやすくなるからです。

【余談】司法試験合格者の優位性は減少することに

弁護士(司法試験合格者)が公認会計士試験合格を目指す戦略」で書きましたが、司法試験合格者は、公認会計士試験において、短答式試験全科目免除されます。

このメリットは、特に近年の短答式試験の難化という状況では、圧倒的な優位性があったといえるでしょう。

しかしながら、上述のように、短答式試験試験合格者数が増えて、論文式試験の合格率が下がるので、このメリットの程度は減少するといえるでしょう。

とはいえ、大きなメリットであることにまったく変わりはないのですが。。。

短答式試験の形式も変わる!~問題数と時間配分の変更~

合格率の調整とあわせて、令和8年(2026年)試験から短答式試験の形式自体にもメスが入ります

特に、計算問題が出題される「財務会計論」と「管理会計論」で、問題数を増やし、1問あたりの配点を下げる調整が行われます。

【短答式試験の科目別変更点(令和8年試験~)】

科目変更前の形式変更後の形式(予定)
財務会計論120分 / 28問150分 / 35問程度
管理会計論60分 / 16問75分 / 18問
監査論60分 / 20問50分 / 20問
企業法60分 / 20問50分 / 20問

この変更が意味することは何でしょうか?

  • 財務・管理: 問題数が増えることで、より網羅的な知識が問われるようになります。また、1問あたりの配点の比重が下がるため、たった1問のケアレスミスが合否を分けるといった「運」の要素が減り、実力通りの結果が出やすくなります 。試験時間が延びるものの、問題数も増えるため、解答スピードがより重要になるでしょう。
  • 監査・企業法: 理論科目は問題数が変わらず、試験時間が10分短縮されます。これは、現在の試験時間には比較的余裕があるという実態を踏まえたものです 。これまで以上に、迅速かつ正確に正誤を判断する能力が求められます。

この試験形式の変更は、各科目の重要性を変えるものではなく、より的確に受験生の能力を判定するためのバランス調整であると理解してください

まとめ

今回の記事では、公認会計士試験改革の骨格となる「合格率のバランス調整」と「短答式試験の形式変更」について解説しました。

背景: 受験者増による「短答式が超難関、論文式が比較的高合格率」という歪みを是正

合格率: 短答の門戸を広げ、論文でより高度な競争を促す方向へ

短答形式: 計算科目の問題数を増やし、より実力が反映されやすい試験へ

時期: 令和8年(2026年)から段階的にスタート

この改革は、受験生の皆さんにとって決して悪い話ではありません。

むしろ、丸暗記に頼った学習から脱却し、早期から論文式試験を意識した「本質的な理解」を重視する学習に取り組む絶好の機会と捉えるべきです。

今回の公表資料の続きについては、「会計士試験のバランス調整~新しい傾向~」で解説しています。

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