売り手側の事前の留意点
事業承継には3パターンの方法があることについては、『事業承継対策をはじめよう』で説明しました。
そのうち最近頻繁に行われるようになった第三者承継(M&A)について、売り手、すなわち事業を承継してもらう側からの留意点について説明します。
ひと昔前までは、M&Aで会社を売却するというと、「従業員をおいて逃げるのか」「ハゲタカに売り渡すのか」等と意味不明な誹謗中傷もあったようです。
しかし、現在では全くそのようなことはなく、M&Aはむしろ、売り手買い手双方の会社、従業員、取引先すべてにメリットが生じうる方法として、一般的になっています。
M&Aの売り手側の事前、すなわち実際に売却の交渉に入る前に必要な準備としては、以下の3つです。
①業績の向上
②会社経営について法律問題のクリア
③株式の保有者の確認
この3点について、きちんと準備した会社は、買い手側から高く評価されるため、いい条件で事業承継してもらえるのです。
①業績の向上
中小企業の事業承継において、会社の売却(法的に言うと株式の売却)の値段を算出する方法はさまざまあります。
一般的には、純資産(資産から負債を引いたもの)の額+利益の数年分、という算出方法が用いられることが多いです。
どのような算出方法をとるにせよ、会社の買い手は、将来その会社が利益を獲得することを見込んで買うわけですから、現状会社がどれだけ利益を出しているのかは、とても大事です。
業績の向上が大事というのは当たり前ではあるのですが、第三者に売り抜けちゃうから業績はどうでもいいやって思っている方は、考え方を改めましょう。
②会社経営における法律問題のクリア
世の中の中小企業においては、法令順守が必ずしもきちんとしていない、というのが通常かと思います。
また、1人株主=オーナー社長のような会社においては、会社の財産とオーナー個人の財産の区分けがしっかりできていないケースが大半です。たとえば、自動車が会社名義になっているが、社長が個人的に利用しているだけ、といったケースはよくあります。
会社を売却する場合には、会社の財産とオーナー個人の財産を明確に分ける必要があります。
また、オーナーが経営している別会社との取引を行って、そちらの別会社に利益が流れているような場合には、それも止める必要があります。
このような法律問題のクリアには、顧問弁護士に相談すればよいでしょう。
顧問弁護士がいない場合、事前のこの段階で、事業承継の経験がある弁護士を顧問として、会社の売却までサポートしてもらうことをお勧めします(いずれにせよ、最終的に株式譲渡の契約書作成において弁護士は必須なので)。
また、弁護士がいれば、一部の事業(たとえば不動産賃貸業)を残すために、会社分割という方法とることがいいのでないか、といった有意義なアドバイスが得られることもしばしばです。
③株式の保有者の確認
上述のとおり、会社の売却というのは、法律上は、株式の売却です。
事業承継を行う会社というのは、基本的に設立が古いことから、現時点で誰が株主であるかの確認が必須です。
創業時から株主が移っていないか、出資していないのに形式だけ株主になっていないか(このような人を「名義株主」と言ったりします)、などの調査が必要です。
中小企業では、ずっと株主総会を開いていない(法律上は1年に1回以上開く必要があります)というケースもよくあり、誰が現在株主なのか、誰もきちんと確認していないということがよくあります。
このあたりも、昔の記録(創業時の定款等)を引っ張り出して、顧問弁護士に相談しましょう。
まとめ
第三者への事業承継(M&A)の売り手側は、いい条件で会社を売るための事前準備が肝心
業績向上こそ、もっとも基本的で重要
オーナー個人と会社の財産はきちんと区分しよう
会社の売却とは株式の売却なので、株式を保有しているのは誰かはっきりさせよう

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