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東京証券取引所(第1回):日本経済の心臓部、その歴史と現在

会計

はじめに

日本の資本市場の中核をなす「東京証券取引所(以下、東証)」について、その役割や仕組み、そして今後の展望を、3回にわけて解説していきます。

会計と法律、公認会計士と弁護士の関わり方などを含めて、多角的に掘り下げていきたいと思います。

第1回となる本記事では、まず東証の「概要と歴史」に焦点を当てます。

いつ、どのようにして生まれ、どのような変遷を経て現在の姿になったのか。

そして、日々ニュースで耳にする「上場企業数」や「時価総額」はどのように推移し、現在の市場はどのように区分されているのか。

日本経済の心臓部ともいえる東証の基本的な構造を、一緒に見ていきましょう。

東京証券取引所の誕生と歴史的変遷


東証の歴史は、明治維新後の日本の近代化と軌を一にしています。

そのルーツは、1878年(明治11年)に設立された「東京株式取引所」にまで遡ります。

当時の日本は、産業を興し、国を発展させるための資金を広く社会から集める仕組みを必要としていました。

そのための公的な器として、株式の売買を行う市場が創設されたのです。

ちなみに、設立の中心となったのが、2021年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公である、渋沢栄一です。

設立当初は、まだ取引も閑散としていましたが、日清・日露戦争を契機に軍事関連の公債や株式取引が活発化し、日本経済の発展と共にその規模を拡大していきました。

しかし、その歩みは平坦なものではありませんでした。

第二次世界大戦中の1943年、戦時統制経済の下、全国の11の株式取引所は「日本証券取引所」として一つに統合され、半官半民の特殊法人となります。

しかし、戦局の悪化に伴い、1945年8月には全市場で取引が停止され、終戦後にはGHQ(連合国軍総司令部)によって解散させられました。

個人的には、空襲が激化した1944年の後半以降も、市場が空いていたことに驚くのですが。。

日本の資本市場が再び息を吹き返したのは、戦後の復興期である1949年(昭和24年)のことです。

GHQによる財閥解体で放出された大量の株式の受け皿として、そして民主的な資本市場を育成する目的で、証券取引法に基づき、会員制の「東京証券取引所」として新たに設立・再開されました。

ここからが、現在の東証の直接的なスタートとなります。

再開後の東証は、日本の高度経済成長と共に目覚ましい発展を遂げます。

特に1980年代後半のバブル経済期には、日経平均株価が史上最高値の38,915円(1989年12月29日終値)を記録し、時価総額でニューヨーク証券取引所を抜き、世界一の規模にまで膨れ上がりました。

一方で、バブル崩壊後の「失われた30年」と呼ばれる長期的な経済停滞期には、株価も低迷します。

結果的に、バブル期の史上最高値更新したのは、2024年2月22日で、34年ぶりのことでした。。

この間、東証は大きな制度改革をいくつも経験しました。

取引の高速化・電子化の波は、かつて多くの証券マンでごった返していた「立会場」を過去のものとし、1999年にはその歴史的な役割を終えました。

21世紀に入ると、グローバルな取引所間競争の激化を背景に、経営体質の強化が急務となります。

2001年には会員組織から株式会社へと組織変更し、翌2002年には東証自身が株式を上場。

そして、2013年には大阪証券取引所(現:大阪取引所)と経営統合し、持株会社である「株式会社日本取引所グループ(JPX)」が発足しました。(戦前と名前は一緒ですね)

これにより、現物株を扱う東証とデリバティブ(金融派生商品)に強みを持つ大証が一体となり、総合的な金融市場インフラを提供する体制が整ったのです。

上場企業数と時価総額の推移:データで見る東証の成長

東証の歴史を語る上で欠かせないのが、その規模の変遷を示す「上場企業数」と「時価総額」のデータです。

これは、日本企業の成長の軌跡そのものであり、日本経済の体温を示す指標とも言えます。

以下に、戦後再開から現在に至るまでの、主な節目の年における上場会社数と株式時価総額の推移をまとめました。

【図表1】東京証券取引所 上場会社数・時価総額の推移

注:2013年以降は東証・大証統合後の市場(TOKYO PRO Marketを除く)の合計値。2024年の数値は2024年5月末時点のもの

この図からいくつかの重要なトレンドが読み取れます。

  1. バブル経済の熱狂と崩壊: 1989年の時価総額は約591兆円と、まさに絶頂期でした。しかし、その後のバブル崩壊により、2000年には約344兆円へと大幅に減少。企業数が増加しているにもかかわらず時価総額が減少している点に、株価の長期低迷の深刻さが表れています。
  2. リーマンショック後の停滞: 2008年のリーマンショックは世界経済を揺るがし、東証もその影響を免れませんでした。2010年の時価総額はバブル期の半分程度にまで落ち込んでいます。
  3. アベノミクス以降の回復と近年の活況: 2012年末からのアベノミクスを契機に、株価は回復基調に転じました。そして記憶に新しい2024年、日経平均株価はバブル期の最高値を34年ぶりに更新し、時価総額も1,000兆円に迫る勢いを見せています。これは、企業業績の向上や海外からの資金流入、そして後述する市場改革への期待などが複合的に作用した結果と言えるでしょう。

上場企業数も、新興企業向けの市場(マザーズやジャスダック、現在のグロース市場)の創設などを背景に、一貫して増加傾向にあります。

これは、東証が時代に合わせて多様な企業の資金調達ニーズに応え続けてきた証左です。

なお、現在は約4000の上場企業がありますが、基本的に最低2名の社外監査役(もしくは社外取締役)がいるので、約8000名の社外監査役等がいることになります。

このうち、以下の表のとおり弁護士の割合が22.4%、公認会計士の割合が22.5%(2024年。出典:コーポレート・ガバナンス白書2025)だそうなので、

延べ人数だと弁護士、公認会計士が、それぞれ約1,800名ほど、東証の上場企業で社外役員を務めていることになります。

実際は、複数社の社外役員を兼務する人が多いので、人数としてはもう少し少ないです。

それでもかなりの人数の弁護士や公認会計士が、社外役員をやっているということをご理解いただけましたでしょうか。

現在の市場区分:プライム・スタンダード・グロース

東証を理解する上で、現在の「市場区分」を知ることは不可欠です。

2022年4月、東証は従来の「市場第一部、第二部、マザーズ、JASDAQ」という4つの市場を、「プライム市場、スタンダード市場、グロース市場」の3つへと再編しました。

この再編は、単なる名称変更ではありません。

各市場のコンセプトを明確にし、上場企業に持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促すことを目的とした、構造的な大改革です。

私たち公認会計士や弁護士にとっても、この再編は企業のガバナンスや情報開示のあり方を考える上で非常に重要な意味を持っています。

【図表2】新市場区分の概要(2022年4月〜)

市場区分コンセプト主な上場基準(新規上場時)
プライム市場多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場・株主数:800人以上
・流通株式時価総額:100億円以上
・事業継続年数:3年以上の事業実績
・高い水準のコーポレート・ガバナンス
スタンダード市場公開された市場における投資対象として十分な時価総額(流動性)と基本的なガバナンス水準を備え、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場・株主数:400人以上
・流通株式時価総額:10億円以上
・事業継続年数:3年以上の事業実績
グロース市場高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場・株主数:150人以上
・流通株式時価総額:5億円以上
・事業計画の開示と進捗開示

注:上記は新規上場基準の抜粋であり、他にも財政状態や利益の額(または時価総額)などに関する基準があります。


プライム市場は、いわば日本を代表する大企業が集う市場です。グローバルな投資家が安心して投資できるよう、流通株式(安定株主が保有する株式を除いた、市場で実際に売買される可能性の高い株式)の時価総額基準が厳しく設定されているほか、コーポレートガバナンス・コードの全原則(補充原則を含む)へのコンプライアンスが求められるなど、国際標準のガバナンスが要求されます。

スタンダード市場は、日本の経済を支える中核企業向けの市場と位置づけられています。プライム市場ほどの流動性やガバナンス水準は求められないものの、公開企業として着実な成長を目指す企業が属します。

グロース市場は、将来の飛躍的な成長が期待される新興企業・スタートアップ向けの市場です。足元の業績よりも将来の「成長可能性」が重視される点が特徴で、その分、投資家への情報開示(事業計画の進捗など)が厳格に求められます。

この市場再編により、投資家は各市場のコンセプトに基づいて投資先を選びやすくなり、企業は自社の成長ステージや戦略に合った市場を選択し、その市場の期待に応える形で企業価値向上を目指すことが求められるようになりました。

まとめ


今回は、東証の概要と歴史、そして現在の市場構造について解説しました。

明治期に産声を上げてから約150年、東証は戦争、復興、高度成長、バブルとその崩壊、そしてグローバル化といった時代の荒波を乗り越え、日本経済と共に歩み、その姿を変化させ続けてきました。

2024年に付けた史上最高値は、一つの到達点であると同時に、新たな時代の始まりを告げる号砲のようにも聞こえます。

東証の発祥は、1878年(明治11年)に設立された東京株式取引所

バブル期には時価総額でニューヨーク証券取引所を抜き、世界一の規模になったことも

失われた30年の低迷を乗り越え、2024年に日経平均はバブル後最高値を更新

プライム市場、スタンダード市場、グロース市場、の3つの市場に2022年に再編された

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