弁護士が公認会計士登録をするための壁は試験だけではない
近年、弁護士と公認会計士のダブルライセンスを目指す方が多くなっています。
(「弁護士と公認会計士のダブルライセンス」参照)
弁護士が公認会計士になるためには、会計士試験に合格しなければなりません。
試験合格の戦略は、「弁護士(司法試験合格者)が公認会計士試験合格を目指す戦略」をご覧ください。
ただ、公認会計士試験に合格するだけでは、公認会計士登録はできません。
下記3つの要件を満たす必要があります。
①3年の実務要件(以前は2年でしたが3年に延長されました)
②実務補修所における単位取得
③修了考査の合格
(「弁護士が公認会計士とのダブルライセンスを目指すメリット・デメリット」参照)
このうち、①3年の実務要件、を満たすことが悩ましくなります。
3年間の実務要件
実務要件は、金融庁の「公認会計士の資格取得に関するQ&A」サイトに記載があります。
細かいことはこちらでご確認ください。
ざっくりいえば、
3年間(会計士試験合格の前後問わず)、
業務補助(監査法人勤務)、もしくは、実務従事(銀行等での勤務経験)のどちらかする必要があるということです。
この点、弁護士になる前に銀行で働いていた方などは、実務従事の要件を満たすかもしれません。
ただ、大多数の弁護士は実務従事の要件を満たしてはいないでしょう。
したがって、業務補助(監査法人勤務)の要件を満たせるのかがポイントになります。
試験合格後のキャリアプラン
弁護士が会計士試験に合格した後のキャリアプランは、以下の3パターンでしょうか。
どのキャリアプランも、一長一短といえるでしょう。
①試験合格しても、会計士登録は目指さない
案外、このプランを選択する弁護士が多い気がします。
このプランのメリットは、年収が下がらないことです。
弁護士の稼ぎに比べると、会計士試験合格者1年目の年収(600万円程度)は大きく下がるためです。
このプランのデメリットは、せっかく会計士試験に合格したのに、会計士を名乗れない点です。
(会計士試験合格とHPに載せることはできますが、TOEIC等のスコアと同様のインパクトになってしまいます)
もっとも、ダブルライセンスになっても、弁護士業務だけをやる方も多いです。
そうであれば、そもそも会計士登録のメリットも大きくありません。
そういった方は、会計士登録をしない手も十分にありだと思います。
②監査法人に就職(常勤)する
メリットは、会計士としてのスキルを1からきちんと身に着けることができる点です。
デメリットは、年収が大きく落ち込むこと、弁護士としてのキャリアが一時止まってしまうことです。
若手弁護士の間に会計士試験に合格した方が、このプランを選択する印象があります。
年齢が若ければ、1年目として扱われることもにも違和感がないからでしょう。
また、年収の落ちる幅も、ベテラン弁護士と比べれば少ないです。
このプランを選んだ場合、就職後、いつまで監査法人に勤めるかは人それぞれです。
実務要件を満たして、3年程度で辞める方も少なくない印象です。
一方、会計士としての一定の経験・スキルを身に着けたいかたもいるでしょう。
そうであれば、上場企業のインチャージ(監査チームの現場責任者)をやってから辞めるましょう。
上場企業のインチャージをやれば、企業のガバナンスの全体感が見えるようになります。
この経験は、将来社外役員をやるときに、きっと役に立つはずです。
③弁護士業務を続けながら、監査法人に非常勤として勤務する
メリットは、弁護士業務を続けることから、年収があまり下がらない点です。
もっとも、インハウスローヤー等、日中の時間が拘束されている弁護士には選択できないプランです。
デメリットは、非常勤勤務の日数が少ない(年間数十日程度)場合、会計士としてのスキルを十分に身に着けにくい点です。
したがって、このプランは、
「会計士試験に合格したし、とにかくダブルライセンスとして登録したい」
という方に向いているでしょう。
もちろん、会計士としてのスキルは、ダブルライセンス取得後に、
自分の所属する組織で会計業務を受託してスキルを高めることもできます。
もっとも、世の中の法律事務所の大半は法律業務のみをしています
よって、大半の法律事務所では会計業務の受託が難しいということは留意しておきましょう。
まとめ
会計士登録の要件たる実務経験をどうするかでキャリアが異なる
会計士試験合格者という肩書だけ取得することも十分考えられる
監査法人への転職は、年収ダウンのデメリットが大きい
非常勤で監査法人に務めることで、ひとまず登録だけする手もある


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